第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「ひなたさん!」
「!」
背後から、聞き覚えのある声で呼び止められて。
振り向くより前に誰なのかは分かっていたが、姿をきちんと確認して確証を得ると、心臓が僅かに反応を示してしまった。
「安室さん?」
「良かった、間に合いました」
何か伝え忘れたのかと首を傾げるが、彼はスッと自然に私の横へと並んでみせて。
「一緒に帰りましょう」
「え・・・」
予想に反し、そんな事を言ってきたから。
聞き間違いなのかと、目を見開いた。
「あ、あの・・・事情聴取は・・・」
「僕は改めてする事になりました。まあ、あんな事をしてしまったので」
頬を軽く掻きながら笑って話をする彼に、更に目を見開いて。
・・・この男、本当にバーボンなのかと疑いたくなる。
「それに、ひなたさんをこんな時間に1人にしておくのは、危険ですから」
そう言いながら、彼に車で掛けられていたジャケットを、再び私の肩に掛けられて。
・・・勉強になる。
どういう事を言えば女性が喜び、どういう事をすれば満たされるのか。
今の言葉や行動といい、自然と車道側を歩くことといい、上手い距離の詰め方を彼はよく知っている。
・・・私も、あの頃そういう風に立ち回れたら。
今頃はこんな事になっていなかったかもしれないのに。
「ひなたさん?」
「あ、すみません・・・色々あって疲れてしまって」
覗き込むように顔を近付けるのも、近過ぎず遠過ぎず。
相手を異性として意識するには的確なのだろうな。
それが誰にでも通用する訳ではないけれど。
「ひなたさんは、ミステリーお好きなんですか?」
「・・・どうしてですか?」
突拍子も無く、そんな事を尋ねてきた彼に視線を向けて。
この男はいつもそうだな。
その目は純粋な質問をしているようにも見えたが、彼がバーボンだというせいで、何か意図があるようにも感じた。
「今日、見事な推理でしたから」
表情は笑っていたけれど、一瞬変わったそれに気付かないはずがない。
「・・・・・・」
・・・ああ、間違いない。
この雰囲気と目は。