第12章 LikeはLoveか、別物か
「・・・冗談だ」
そんな風には聞こえない声色でそう言い、私の顔から手を離した。
沖矢昴の時もそうだが、彼はどうにも最近ファーストネームで呼ぶことにこだわっている気がする。
彼と出会ってから年月はそれなりに経つが、今までそんな事一度も無かったのに。
寧ろそういうことは拒むタイプだと思っていたが。
「で、では私も戻ります・・・」
空気も気まずい。
あの部屋に戻る事も気まずいが、今はどっちみち戻らなければいけない。
そう思って部屋を去ろうとした時。
「何を言っている」
赤井さんの傍を通り際、咄嗟に腕を掴まれた。
驚いて声も出なかったが、彼の顔を見上げて止めた意味を目で問いかけた。
「傍にいろと言っただろう」
確かに、それは。
「言いました・・・けど・・・」
あくまでもミッション中のことだと思っていたから。
今日はここに泊まれという意味なのだろうかと戸惑っていると、彼にはそれが軽い拒絶か不服と取られたようで。
「俺では不満か?」
「違います!」
強めの否定で首を振ると、赤井さんはフッと笑みを零して。
最近の赤井さんは、依然と雰囲気が変わったように思う。
どこか・・・柔らかくなったような。
いや、距離感・・・だろうか。
「ある程度は揃えているが、他に必要な物があれば、明日ジョディに揃えてもらうと良い。決して1人では行動するな」
「・・・分かりました」
そう、か。
恐らくここに泊まる事は今日だけではない。
もしかすると、あの部屋に戻ることも無いかもしれない。
事の重大さは分かっていたつもりだったが、自分の身がどうなっているのかの重大さは、ようやく気が付いた感じがした。