第11章 昨日と明日と明後日と
その日の夜。
メールで指定があった場所で待っていると、暗闇から浮き出てくるようにして到着した赤井さんの車が、私の目の前で止まった。
「待たせたか?」
助手席側のウインドウが開くと、覗き込むように赤井さんが顔を見せて。
「いえ、大丈夫です」
昼間まで緩み切っていた気持ちを引き締めるように背筋を伸ばすと、助手席へと乗り込んだ。
「あの後は無事だったか?」
シートベルトを締める私に、赤井さんはどこかわざとらしくそう尋ねた。
無事じゃなくしたのは赤井さんなのに。
ただ、そのおかげで・・・という所もある。
諸々言うなら、ここが良いタイミングなのは分かっていたが。
「・・・ご想像にお任せします」
なんとなく、濁してしまった。
そのせいで勘の良い赤井さんなら、色々と感づいてしまったかもしれないが。
彼の小さな笑みを横目で確認して、そう思った。
「・・・それより」
ゆっくりと出発した車内でスマホを取り出すと、時間を確認して。
「本当に動くんでしょうか」
「ああ、今夜確実にな」
今日の夜は長くなりそうだ、とスマホをポケットにねじ込み、ホルスターから銃を取り出し不具合がないかを軽く目視した。
街灯に時折照らされるそれに、緊張感を高められて。
同時に銃の重さが増すようだった。
「彼も、今日はポアロに出ていなかったんだろう」
「はい」
彼が急な体調不良でポアロを休んだ、ということは梓さんに確認済みだ。
だからこそ、今日という日に信憑性が高まっていた。
・・・警察庁内に侵入者が出るのが今日だという事に。
「・・・・・・」
組織の人間である可能性は高い。
それが誰なのか、本当にノックリストが狙われているのか。
まだ詳しくは分からないが、用心することに越したことはない。
その為、今夜は2人で警察庁付近で待機することにしていた。