第11章 昨日と明日と明後日と
程なくして、車は警察庁近くのとある道沿いに停車された。
エンジンを切られると静けさが酷く目立ち、小さな物音すら大きく感じた。
視線の先には警察庁があったせいか、私の頭の中に、必然的だったのかもしれないが浮かんだ顔があって。
「・・・あの」
「どうした」
こんな時にこんな事を聞いてもいいか、少し迷いはしたが。
「どうして彼は、FBIをあんなに嫌うのでしょうか」
私の中での引っ掛かりを、つい漏らしてしまった。
「本人に聞いてみればいいんじゃないか」
「無茶言わないでください・・・」
組織にいる頃から、バーボンはライと仲が良いとは言えなかった。
スコッチの件があってからは尚更で。
そのせいで赤井さんのことが嫌いなのは分かるが・・・FBIに対する敵意はそれを超えているようにも思えて。
これは自分に対する不安でもあるという事は分かっている。
もし私がFBIであることが透さんにバレたら・・・。
「嫌われないか、不安か?」
「!」
赤井さんのその一言で、警察庁に向いていた視線は思わず赤井さんの方に向いてしまった。
即座に視線は戻したが、動揺を抑えるのには多少時間を要した。
「・・・・・・」
・・・赤井さんの言う通り。
「はい・・・」
不安だ。
その感情が、彼への思いを物語っているのだが。
赤井さんに直接は言いはしないものの、そういう関係になったと打ち明けたも同然だった。
「もし、彼がそんな事で君を突き放すようであれば」
言いながら、赤井さんは私の頭に手を置いて。
子どもを褒めるように優しく撫でて。
「俺が責任を持つ」
少し低い声で、そう言った。
どういう事か、と再び彼に視線を向けると、彼は後部座席に移動するようジェスチャーで示して。
聞きたいことは聞けないまま、指示された通りにすぐ後部座席へと移動した。
その、ほぼ直後だった。
「!!」
警察庁側から、大きな何かが割れるような音がしたのは。
その僅か数十秒後、複数のタイヤが擦れる音やクラクションが聞こえ、付近の道路上に何か異変があったことを感じ取った。