第11章 昨日と明日と明後日と
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「・・・・・・」
いつの間にか眠っていた。
警戒心の欠片もなく。
彼の緊張感を解ければ、なんて思っていたが。
一番それを解いてしまったのは、私の方かもしれない。
彼が起きたことにも、ましてや部屋を出て行ったことにも気が付かないなんて。
彼のベッドの上で、彼の匂いに包まれながら体を起こすと、部屋に置かれているテーブルの上に置手紙と鍵が置かれていることに気がついた。
手紙には、先に部屋を出る事、朝ごはんはキッチン側のテーブルに用意している事、そして。
置いているカギは合鍵だから、持っていてほしい・・・という事が書かれていた。
手紙通り、キッチン側のテーブルには十分過ぎるほどの朝食が準備されていて。
それを見下ろしながら少し迷った。
口を・・・つけるべきか否か。
ここまで私を油断させる為の罠だったら?
これを準備する間も起きれなかったのは、知らず知らずの内に睡眠薬を飲まされていたからでは?
・・・なんて言うのは流石に言い訳じみているか。
仮にそうだとしても、飲まされた私が悪い。
静かにイスを引くと、そのままそこへ腰掛けて、用意された朝食を全て胃に収めた。
その食器を洗い片付け、寝ていたベッドを軽く整えると、机上にあった鍵をそっと手に取って。
持っていようか、迷いがなかったと言えば嘘になる。
ただ、今は施錠に使う為だからと、無意味にそんな事を思いながら部屋を出て、そのカギで施錠をした。
これを赤井さんに知られたら・・・なんて思っていると、タイミングが良いのか悪いのか、私のスマホが着信を告げた。
足早に隣の自室に戻ると、軽く盗聴器の類がないかを確認して。
「・・・はい」
赤井さんからだという事は分かっていた。
だから、一度浅い深呼吸をして応答ボタンを押した。
『今夜、指定する場所まで出ていてくれ。迎えに行く』
用件だけの手身近な電話。
「分かりました」
そう返事をすればすぐに切れたが、今はその方が都合が良い。
声色は変じゃなかっただろうか。
何か悟られていないだろうか。
別に知られても構わない事なのに、何故か後ろめたく思ってしまう。
・・・いや、違うな。
知られても構わない事だけど。
知られたく・・・ないんだ。