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【安室夢】零番目の人【名探偵コナン】

第11章 昨日と明日と明後日と




「緊張できる人と知って、安心しました」
「しますよ、人間ですから」

確かに、彼はその完璧さ故か、どこか機械的なものを感じていたが。

人間らしさを感じ取ることができたおかげか、強張っていた体の力は簡単に抜けていた。

「・・・昔は、そんな片鱗も見せなかったから」

力と共に気が緩んだせいか、そんなことをポツリと口にしてしまって。

昔話なんてするつもりでも、したかった訳でもないのに。
本当につい、口から零れてしまった。

「見せると、命取りですから」

それに対し彼も、独り言のようにそう呟いて。

緊張感を崩せないのは命が関わっているから。
それは自分のものだけでなく、下手をすれば仲間の命もだから。

だから彼は・・・完璧でいるしかなかった。

せめて、私の前でだけは。
その緊張が少しは解けると良いのだけれど。

「・・・ひなたさん」
「はい」

抱きしめる腕の力が少し強まって。
けど、締め付けるような強さではない。

ギリギリを見極めながら、彼はふと私の名前を呼んで。

「生きていてくれて・・・ありがとうございます」
「・・・!」

そう、噛みしめるように言った。

組織から抜ける時、赤井さんは上手く私を逃がしてくれた。
・・・この世から消したと見せかけて。

透さんは、それを本気で信じるような人ではないと思っていたが、恐らく前例があったから。

・・・スコッチ。
あれが事故だと分かっていても、怒りを赤井さんに向ける他なかったのだろうな。

「・・・・・・」

もし。

・・・もし、あれが透さんだったら。
彼はスコッチと同じ選択をしていたのだろうか。

だとすれば、彼がこうして私の目の前にいるのは奇跡なのかもしれない。

「・・・透さんも」

そう思うと、私を包む彼の腕の体温も酷く尊いものに思えてきて。

彼の胸の中に顔を埋め込むようにしながら、そう呟いた。

「・・・僕は簡単にはいなくなりませんよ」

少しの間の後、彼は更に腕の力を強めて。

「結構、しぶとい人間ですから」

静かな声だが、力強い声色で、そう言った。




 
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