第11章 昨日と明日と明後日と
「ありがとうございます」
彼から滲み出てくるような喜びに、思わず目を背けた。
恥ずかしいなんてものじゃない。
言葉にできないむず痒さは、下唇を軽く噛んでどうにか逃した。
「では、これからは彼女として接していいんですね?」
「は、はい」
横目で視線を戻しつつ、了承の言葉を口にしたものの、それがどういう行動となって私に返ってくるのか。
ふと考えた時、真っ先に思い出したのは二人の共通した職場で。
「あ・・・でも、ポアロでは・・・っ」
あんな所で噂になんてなったら。
ポアロに迷惑が掛かるどころの話ではなくなってしまう。
ただ彼は私がそれを気にすることも見越していたようで。
「大丈夫です、この関係は二人だけの秘密です」
皆まで言うより前に、人差し指を口元に当てたジャスチャーをしながら、そう告げた。
彼ならこんな事を察するのは朝飯前か、と小さく息を吐いた瞬間、徐ろに私の顔を覗き込んだかと思うと。
「・・・ひなたさんが、周りに言いたくなるまでは」
「!?」
天使とも悪魔とも受け取れる笑みでそう言ってくる彼に、思わず動揺を顔に出してしまった。
いや、今までも既に出てしまっていたかもしれないが、自分でも分かるほど出てしまった。
その事実に更に恥ずかしさを覚え、顔に熱が一気に集まる感覚を覚えた。
「可愛いですね」
・・・ああ、もう。
本当に乱される、おかしくさせられる。
「よく平気で言えますね・・・」
もう、昔のことを含めての関係だ。
バーボンとウェルシュだった頃を思い出しながら、あの頃からそうだったと含みながら言えば、彼は更に私との距離を詰めて。
「平気じゃありませんよ」
「!」
そう言いながら徐ろに私の手を取ったかと思うと、その手を自身の胸元へと動かし、私の掌を彼の心臓付近へと当てさせられた。
「ほら」
表情はいつも通り涼しい表情をしている。
けれどそれとは裏腹に、彼の心臓は落ち着きなく、大きく音を立てながら脈打っていた。