第11章 昨日と明日と明後日と
「好きな人が、僕の事を見てくれると・・・傍にいてくれると、言ってくれたんですよ?」
そこまでハッキリと言った覚えはないが、つまりはそういう意味になってしまうのだろう。
その声が、気持ちが。
手からも伝わってくるようで。
「・・・平気なわけ、ないじゃないですか」
「ッ・・・」
小刻みに手が震える中、彼の何とも言えない表情を向けられ、数秒呼吸の仕方を忘れてしまった。
そうだ、彼はこういう人だ。
少しは気を許す関係に近づいたからと言っても、気を抜いて良い訳ではない。
彼のテリトリーは案外広いということを、忘れてはならない。
「・・・ひなたさん」
「は、はい」
ゆっくり、掴まれていた手が離されて。
自分の手を胸元まで引き寄せると、もう一方の手で包み込んだ。
「嫌だったら、断ってください」
「?」
やけに丁寧な前置きをする彼に首を傾げると、彼は一度静かに目を伏せ、改めて私の目を見つめた。
どこか一瞬で纏う雰囲気を変えた瞳に背筋を僅かに伸ばすと、ゆっくりと口が開かれて。
「今日は・・・ここで寝ませんか」
「!?」
次の瞬間、聞き間違いかと思ってしまうような言葉を耳にした。
ここで?彼と?
何故、という思いが強くもあったが、世間一般では恐らく普通の事なのだろう。
「・・・すみません。まだ、一緒にいたいんです」
恋人関係の人間が、同じ部屋で眠ることなど。
ただそれはあくまでも一般的な、だ。
私たちは世間からズレた者達で。
これが素の思いなのか、何かの作戦なのか。
そう考えてしまうこと自体が、問題な気もするが。
「もちろん、何もしません」
返答に困る私に、後押しをしたつもりなのかもしれないが。
「それ、何かする人が言うやつじゃないですか」
「ですね」
それが冗談なのかどうかも判断できない。
・・・普通の恋人同士であれば、彼のように軽い笑みで流せたのだろうな。