第11章 昨日と明日と明後日と
言ってしまった。
直後は、そんな罪悪感のような背徳感のような、少なくとも後悔に近い感情に襲われた。
「かも、ですか」
・・・やめてほしい。
その子犬のような雰囲気を醸し出すのは。
これでも精一杯なのだと心の中で言い訳をしていると、頬にスッと彼の指が這わされた。
「透、さ・・・」
ゆっくりと指が頬を滑っていく。
彼の掌が頬を包む頃、擽ったい感覚に押されて彼の名前を声にすると、子犬の雰囲気は残したまま、透さんは困ったようにクスっと小さく笑って。
「では、まだここにはできませんね」
親指の腹で私の唇をなぞるように触れると、体の奥底の方から熱が湧いてくるような感覚に陥った。
「す、すみません・・・」
「どうして謝るんですか」
どうして・・・どうしてだろう。
なぜ自分でも謝罪の言葉を口にしたのか分からない。
咄嗟に出たのがそれだっただけで。
「僕は、踊り出してしまいそうなほど、嬉しいのに」
クスクスと笑いを漏らす彼を見て、言葉通りその嬉しさが滲み出ているような表情にまた胸が熱くなった。
「ひなたさん」
・・・ああ、本当に私は。
「心から好きだと言わせてみせます」
彼が・・・安室透のことが、好きなのか。
「だから」
今はまだ歪な言葉でしか表現することができないが。
「・・・僕と、お付き合いして頂けませんか」
やはり、この想いに嘘偽りはなかった。
彼からの改めての申し出を聞いて、静かに喜びを感じてしまったことが何よりの証拠で。
私が当初提示した期間よりは少し早い決着となった。
勿論、想像していた結果ではなく、完全に私の敗北として。
「・・・はい」
脆く、崩れやすい関係。
それを現したような声色で返事をした。
ただ、それでも良いかと開き直ってしまう程。
彼という人間に惹きつけられていた。