第11章 昨日と明日と明後日と
「私は・・・」
こういう時には意外と冷静になれることを知ったが、思考回路がまともに仕事をする訳ではないことも、同時に知った。
「・・・・・・」
彼は私とどうなりたくて、思いを告げたのだろう。
それは私がFBIだと知っても、変わらないものなのだろうか。
考えても仕方がないことなのに、途端に不安ばかりが押し寄せた。
そのせいで、再び沈黙を作ってしまって。
「・・・すみません、また卑怯なことをしました」
彼をも、不安にさせてしまった。
違う、違うのに。
どちらかと言えば、こちらの方が卑怯だ。
彼の正体を知った上で、考え立ち回っているのだから。
「無理に返事はしなくてもいいですよ。と言っても、僕にはもう時間はあまり残されていませんが」
・・・1か月。
あの時の私が彼に提示した期間。
その期間はもうすぐ訪れようとしていて。
「ひなたさんの口から聞けなければ、意味はありませんからね」
そう言いながら、彼は頬に添えていた手をゆっくりと離した。
その瞬間から逃げていく熱が、そこはかとない不安を覚えさせて。
「すぐそこですけど、部屋の前までお送りします」
・・・私は彼のことを羨ましく思い、ズルい人だと思ってきた。
でも本当にズルいのは、きっと私の方で。
「・・・ひなたさ・・・」
「ほ・・・っ」
玄関へ向かおうとする彼とは反対に、足が動かなくなった私へ、そちらへ促すように名前を呼びかけられたが、それを掻き消すように声を上げた。
「本当に・・・っ」
確認したところで。
それが真実とは限らない。
「私なんかで良いんですか・・・」
でも・・・それでも良い、なんて思えてくる始末で。
「きっと、透さんが思うような人じゃないですよ・・・」
「・・・・・・」
恋は盲目で、治らない病気で。
そして、この恋は恐らく最終的に実るものではないけれど。
「本当の私を知ればきっと・・・」
「ひなたさん」
それを分かった上で、彼に溺れてしまえればと・・・思ってしまった。