第11章 昨日と明日と明後日と
「ど・・・どんな顔ですか・・・」
「・・・聞きたいですか?」
気まずくて、そんなことを尋ねてみたけど。
更に自分の首を絞めただけだった。
「っ・・・」
イスから身を乗り出すような体勢になっていた彼は徐ろに立ち上がり、私の頬へ指先を滑らせた。
「・・・ひなたさん」
甘い、声。
その名前を呼ばれる直前、彼から目を逸らしてしまって。
「僕の、勘違いではないですよね?」
その視線の先に顔を傾けては、私の顔を覗き込んだ。
「そういうことだと、思って構いませんか?」
「・・・ッ」
・・・流石に、彼には隠せないようだ。
彼は人の感情を見抜くスキルに長けている。
だからこそ、やはりそうなんだと自分でも確信した。
それが分かった上で。
「わ、分かりません・・・」
はぐらかした。
無意味だとも分かっていたのに。
認めたくないという気持ちもあって。
「・・・では、確認していいですか」
「?」
腕を掴んでいた手は頬に移動し、再び両手で包み込んでは顔を真正面に向けられた。
鈍感すぎる私は、その確認という意味を察することができなかったが。
「嫌だったら・・・全力で抵抗してください」
彼の目を見て、気付いてしまった。
「・・・!」
顔が、近づいてくる。
ゆっくりと、でも確実に。
「とお、るさ・・・っ」
これは・・・あれだ。
ずっと、捨てきれずにいた行為だ。
それくらいは私にもわかる。
いつもなら逃げていた。
でも今は。
逃げる理由を、見つけられなかった。
「ッ・・・!」
こういった時はきっと、目を瞑るのが正解なのだろう。
私は反射で、必要以上の力を込めて閉じてしまっただけだが。
そのほぼ直後だった。
唇・・・ではなく、額に柔らかい感触を受けたのは。