第11章 昨日と明日と明後日と
「それとも・・・」
私と同じように、バックにある何かに目を向けているのか。
本当に、身勝手な質問だと分かっていたが。
最近の彼に対するこの感情に、決着をつけたかったのかもしれない。
「ひなたさん」
改まった様子で彼は手を組んで机に置くと、笑みの含まない真剣な表情で名前を呼んだ。
・・・この目は少し苦手だ。
逸らせなくなるから。
「僕はずっと、ひなたさんしか見ていませんよ」
ウェルシュではない、私を。
そう言っているようだった。
まるで最初から、私は組織側の人間ではないと、分かっていたように。
「何か不安があれば話してください」
不安、か。
私がFBIだと言えば楽になるだろうか。
この何を聞いてもスッキリしない感情に、名前が付くだろうか。
そうすればこんな駆け引き無しで、円滑な情報のやり取りができるかもしれない。
想像上は、そんなポジティブな考えばかり浮かんでくるのに。
「・・・っ」
・・・できない。
行動に・・・移せない。
言葉として、出てこない。
「・・・ひなたさん?」
本当に、彼に嫌われたくないと思っているのか?
彼の言葉を鵜呑みにして?
・・・もしかして。
「・・・ひなたさ・・・」
もしかして、私は。
「か、帰ります・・・っ」
気付いてしまったのかもしれない。
自分の気持ちに。
そう思った瞬間、ここにはいられなくなって。
すぐに部屋を立ち去ろうとしたけれど。
その腕は透さんに掴まれ、阻まれてしまった。
「・・・っ」
・・・熱い。
顔が、酷く熱い。
顔だけじゃない。
彼が掴む腕からも、熱がどんどんと広がってくる。
「そんな表情のままでは、帰せないです」
心拍数はどんどん上がり、呼吸が乱れていく。
この気持ちを病だと言った者もいたが、まさにその通りだと思った。
「その表情の意味を、聞いてもいいですか?」
薬なんてない、この病に。
私も侵されてしまったかもしれない。