第11章 昨日と明日と明後日と
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彼は、自身がバーボンだと軽く明かしたこともあってか、調理中私が傍にいることを指摘しなかった。
本当は、こんな事をしなくても、彼は何もしないと思っていたけど。
こういう事で気を抜くのは、良くないと思ったから。
彼に少し気を許したからといっても、私がFBIであることと、私の今の使命は・・・変わらない。
「・・・透さん」
食事が終わり、食器の片づけが終わると、食後の紅茶を差し出された。
・・・砂糖とミルクの入った、甘めの紅茶。
私の好みは全て把握されているのだろうな。
「はい」
・・・私も、今なら少しは何か得られるかもしれない。
そう対抗心にも似た感情を覚えて彼を呼べば、紅茶の入ったカップをソーサーに戻しながら、彼は優しく返事をした。
「あの・・・」
ただ、呼んだは良いものの。
何を聞けばいいのか。
何なら、聞いてもいいのか。
何を聞いても、自分の正体をバラしてしまいそうで。
・・・いや、彼ならもう知っていてもおかしくはないのだけど。
「・・・ひなたさん?」
私がFBIだとはバレない方が良いが、結果バレても構わないはずなのに。
バレたらこの関係が終わりそうで。
彼に・・・嫌われそうで。
それで構わないはずなのに。
身勝手にも、それは嫌だと思ってしまった。
「大丈・・・」
「本当に・・・っ」
彼の言葉を遮るように声を僅かに荒げると、数秒沈黙が流れた。
・・・彼の言葉を真実だと信じれば。
少しは自分の中で安心できると信じ込ませて。
「本当に・・・透さんが好きなのは、私なんですか・・・」
「・・・・・・」
どうしようもなく、身勝手で、FBIとしては失格ともいえる質問を投げかけた。
FBIの捜査官が恋愛禁止なわけではない。
無論、相手は選ばなければならないが。
「如月ひなたという人間が、好きなんですか・・・?」
彼だってそれは同じはずだ。
国や組織は違えど、国の安全を守る使命は互いに変わらない。
その彼が・・・得体の知れない私に向ける感情は、本物なのか。