第11章 昨日と明日と明後日と
「あ・・・」
無意識だった、完全に。
だから、自分の事なのにひどく驚いた。
彼を引き留めたことにもそうだが。
自分から、男性に・・・透さんに、手を伸ばしたなんて。
「す、すみません・・・!」
その手をパッと離すと、恥ずかしさなのか気まずさなのか、視線を彼から逸らしてまった。
・・・いや、本当は。
熱が一瞬で集まっていく顔を、見られたくなかったのだと・・・思う。
「・・・ひなたさん」
数秒の間の後。
彼は優しい声色で、私の名前を静かに呼んで。
「は、い・・・」
おずおずと、視線は上げないまま。
気まずさの籠った声で返事をすると、彼は立ち上がった体を再び屈め、ベッドに座る私の目の前に膝をついた。
視線が同じくらいになると、それは自然と彼へと向いて。
下唇を軽く噛んでは、柔らかく笑みを浮かべる彼を見つめた。
「夕飯、ご一緒しませんか」
突然の誘い。
いつもなら、どうやって断るかを考える所なのだろうけど。
今日は、まだ誰かが・・・透さんがいてくれるのだと、僅かに重くなっていた心が軽くなった。
「僕が作ります」
・・・だとしても、口にするものから目は離せない。
だから気は張った状態になるのだけど。
「ありがとう・・・ございます」
それでも、もう少しだけ一緒にいてほしいと、思ってしまった。
自分でもその考えは信じられなくて。
「それで、もしよければですが・・・僕の部屋でも構いませんか?」
私の話を聞いた後だからか、彼は言いづらそうにその提案をした。
・・・こういう気配りもできる人なのか、彼は。
彼の部屋は自分のテリトリーだと分かっているから、そこに私が踏み込む恐怖を考慮しているのだろう。
「ここが良ければ、調理器具など運んできます」
選択肢も与える。
そして、笑顔を絶やさない。
「あ・・・えっと、お邪魔でなければ・・・」
「僕が呼んでいるのですから、お邪魔と言うことは考えなくて良いんですよ」
そして、私の希望を通りやすくする。
ああ、やっぱり・・・彼が羨ましい。