第11章 昨日と明日と明後日と
「怖くなって、2階からでしたが飛び降りて逃げました。死んだらそれで構わないと・・・思いながら」
幸い、植木がクッションになり、大したけがもなく落ちることができた。
ただ、田舎で夜は人通りが少ない場所だったこともあり、男たちは私を執拗に追いかけた。
「服は逃げる時に掴まれたので脱いでしまい、下着姿のままでしたが逃げていると、通りがかった人が助けてくれました」
捕まれては逃げ、上がった息の中、必死に叫んで。
「父や、知らない男たちはそのまま捕まりましたが、あの時の感覚は・・・今でも消えません」
その偶然通りがかった人も男性だったが、この人は大丈夫だと、本能が見極めた。
後に彼が赤井秀一という人だと知り、その背中を追いかけてFBIに入ったのだが。
「・・・もう、何年も経ったのに。怖くて・・・たまらないんです」
この事をもちろん知っている赤井さんは、私がFBIに入ることを本気で拒んだ。
入れば、これだけの事では済まないこともある、と。
それでも私は彼の傍にいたかった。
役に立ちたかった。
恩を返したいなんて意味ではなく、単純に彼の右腕としていたかった。
「だから、透さんのせいじゃ・・・」
恐怖もあるけれど、それ以上に。
・・・不甲斐なさ。
そんな感情に涙が押し出されただけだと話すと、ずっと黙って話を聞いていた透さんは、静かに口を開いた。
「・・・すみません」
そしてなぜか、また謝罪の言葉を口にした。
「・・・どうして、透さんが謝るんですか」
彼が謝ることなんて、一つもない。
「・・・怖かったですよね」
それでも彼は、起きたことを自分の事のように感じてくれて。
「嫌だったら、突き放してください」
「・・・っ」
そう僅かに震えた声で前置きし、今までになくゆっくりとした動きで、私を優しく抱きしめた。