第11章 昨日と明日と明後日と
「とお、るさ・・・」
「・・・すみません」
やめて、と言えず。
彼の名前を呼んで静止を求めようとしたが。
それよりも先に、彼は謝罪の言葉を口にしながら、手の力を弱め止めていた。
「本当に、すみません」
私の肩を掴み、頭を下げ、突き放すように腕を伸ばした彼の姿に目を向けながら、若干失っていた我を取り戻した。
「い、え・・・」
それは彼も同じだったようで。
「と、透さんのせいじゃ・・・」
・・・そう、彼のせいではない。
私が悪い。
弱い私が悪いんだ。
でも私が目に涙を浮かべた時点で、状況がそうさせてしまう。
「・・・・・・」
今の彼に何を言っても、無意味だろう。
それは私の肩を掴む手の力から、言葉通り痛いほど伝わってくる。
「泣かせてしまったのは、僕のせいでしょう?」
彼のその言葉ちほぼ同時に、溢れ出る事を耐えていた涙は一粒だけ零れ落ちた。
「違います、これは・・・」
反射のようなものだ。
そう言っても、今の彼には届きそうも無くて。
僅かに顔は上がったが、表情が確認できるほどではない。
その様子から、生半可で中途半端な言葉では、この時間も、今後もやり過ごせない。
そう、分かっていたから。
「・・・これは・・・」
真実を・・・伝えるべきだ。
瞬時に決心したけど。
勇気が、出なくて。
声と唇が震え、吐き出す呼吸が影響され吐き出されていく。
「・・・っ」
終わったことだ。
寧ろ、今話して吐き出してしまえば、少しは楽になるかもしれない。
でも言葉は喉の奥の方で詰まり、出て来ようとはしなかった。
「・・・あの男の出まかせを、真実にしてしまいましたね」
肩に置いていた手をスルリと離すと、彼は私の目に僅かに溜まった涙を拭って。
出まかせ・・・というのは恐らく、私を泣かせたという話の事だろうけど。
今回も不可抗力なだけで、真実になったとは言わない・・・という言い訳すら、言葉にできなくなっていた。
「本当に・・・すみませんでした」
・・・ここまで反省しきる彼は、貴重なのではないだろうか。
そう思えるほど、私の中の彼と今の彼とでは印象が酷くかけ離れたものだった。