• テキストサイズ

【安室夢】零番目の人【名探偵コナン】

第11章 昨日と明日と明後日と




「と、透さん・・・っ」

頬だけだと思っていると、今度は額に、そして首筋に。
最後に手を取られると、私へ見せつけるように、真っ直ぐと見つめられたまま指先に唇を落とした。

「や、やめ・・・」
「あの男は良いのに、ですか?」

意外と、彼も挑発に乗りやすい人ではあるな、と考えながら掴まれた手を引いてみるが。

それはビクともしないまま、反対に透さんに手を引かれ、倒れるように彼の腕の中に納まった。

「・・・もう少し、警戒心を持ってください」
「・・・・・・」

細身な見た目のわりに、筋肉質な体。
それを今、全身で感じている。

そしてどこか・・・懐かしい匂いがする。

「それだと、今すぐ透さんに殴りかからなければいけませんが」
「そうしてください」

・・・ああ、思い出した。
まだウェルシュとバーボンの関係だった頃、何度か香ったことのある匂いだ。

ということは、バーボンの時につけていた香水だろうか。

「僕であっても、油断しないでください」

匂いは微かなものだから、恐らく着替えたのだろうな。
わざわざそこまでして、この部屋に来たのか。

「・・・・・・」

透さんの言う通り、警戒すべきだ。
彼が公安の人間だと知ってから、ほんの僅かにそれを解いてしまった気もする。

それは普通の警戒心を解くよりも、酷く危険なことで。

スパイという存在は、潜入先が長ければ長いほど、組織の考え方に染まりやすい。

それ故、そのままその組織の人間になってしまったりなどという事例は、少なくない。

彼だって、今は公安という立場の方を利用しているかもしれないのに。

でもそれは違うと、自分の中で断定付けてしまうのは本当に何故なのか。

「あ、あの・・・」

やり取りがないまま、数十秒経ったが。
時間が進むにつれて、私を抱きしめる腕の力が強くなって。

「透さ・・・苦しいです・・・」

僅かに彼の体を押し返しながら切れ切れに伝えると、その腕の力はスルリと抜かれた。

「・・・すみません」

まるで子犬・・・いや、大型犬だろうか。
ただ、犬が甘えてくるような目をする。

彼の武器だと分かっているのに、僅かな罪悪感を覚えるのは、きっと人間としての本能なのだと言い聞かせた。



 
/ 368ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp