第11章 昨日と明日と明後日と
「ひなたさん?」
「い、今出ます!」
数秒、不敵な笑みを浮かべる昴さんと見つめ合ってしまったが、透さんに再びノックをされ我に返ると、慌てて服の乱れを簡単に直した。
バタバタと足音を立てながら玄関に向かうと、鍵を開け、ゆっくりとドアを開いた瞬間。
「!」
ドアの隙間から透さんの手が勢いよく伸びてきて。
そのままドアを掴むと、その勢いのままドアを開かれた。
「と・・・」
普段そんなことをしない彼がとった行動にも勿論驚いたのだが、それ以上に・・・彼の表情に驚いてしまった。
焦り、動揺、そして怒り。
それらが入り混じったような珍しい表情から、目が離せなくなった。
「あの・・・」
ドアを掴む透さんの手の力から、平常でないことは分かる。
それが怒りによる力任せなことも。
でも、その怒りは・・・いったい誰に向けてのものなのだろう。
「おや、こんにちは」
「!」
やり過ごすのだと思っていたが。
奥の部屋から、昴さんはなぜか透さんの前にわざわざ姿を現した。
どうにも彼は透さんを挑発し、怒らせることばかりする。
その意図が分からないからこそ、こちらとしても接触を控えてほしく思うのだが。
「・・・どうも」
透さんも、最近はその怒りを張り付いた笑顔で隠そうともしない。
怒りや嫌悪を全面に押し出してくる。
・・・ああ、この空間は酷く息苦しい。
「あの・・・っ、透さん、どうかされたんですか?」
とにかく今は、二人を引き剝がして・・・それから赤井さんになぜ透さんを煽るのか説明をしてもらい、それから・・・。
「先日ポアロをお休みしたお詫びに、手土産をと思ったんですが・・・お邪魔でしたか?」
それ、から・・・。
「そ、そんなことは・・・」
・・・透さんに、弁明しなければ。
そんなことを思ってしまった。
その考えがおかしいことには、すぐ気が付いた。
だからこそ、これ以上の思考が停止してしまった。
なぜ透さんに弁明する必要があるのか。
私たちの間は何もなく、これから何かある予定もない。
あくまでも利用するために関係を長引かせているだけで。
なのに、なぜ。