第11章 昨日と明日と明後日と
「一応、俺の技術を教え込んだ人材だ。連れて行かない手はないだろう?」
・・・確かに、彼から直接指導してもらえる捜査員は少ない。
最初は私も無理に頼み込んで、截拳道を教えてもらった。
そもそも彼は私がFBIに入ることを当初反対していたから、稽古をつけてもらっただけでも、ありがたい話なのだが。
・・・でも。
「わ、私では力不足ですよ・・・」
いくら彼から直接指導を受けたからといって、彼と同等に渡り合える技術は持ち合わせていない。
截拳道はその辺の相手には通用しても、スナイパーとしての腕は・・・。
「そんな顔をするな」
・・・彼の、期待に応えることはできなかった。
その悔しさが、表情に滲み出てしまっていたようで。
「君の腕は、俺が保証する」
赤井さんは、正直厳しい。
厳しいからこそ、優しい言葉を貰えた時は心が跳ねるほど嬉しいのだけど。
ただ、こういう時の優しさは・・・少し辛い。
「それに、もう一度叩き込むつもりだ」
「・・・・・・」
・・・もう一度。
そこまで時間は残されていないはずだ。
奴らは、動くとなるとすぐに動く。
こちらに情報が入ってきたということは、既にそれなりに準備が進んでいるということで。
そんな短期間で、私に何かできるだろうか。
「俺では不満か?」
「そんなこと・・・っ」
私の沈黙は、赤井さんにとってそういう風に捉えられてしまったようで。
勿論、冗談だということは分かっているけど。
長すぎた沈黙は、そう返事をしたも同然で。
だから咄嗟に大きな声で否定の言葉を口にしかけた。
それと同時に、落ちていた視線を上げた瞬間、赤井さんと目が合って。
その優しくも真っ直ぐな力強い眼差しに、それ以上の言葉も出なくなった。
「頼んだぞ」
・・・不安を感じる暇も与えてくれない。
でも、それが今は酷くありがたい。
だから私はこの人についてきたのだと・・・一層実感する。