第11章 昨日と明日と明後日と
安室透へのハニートラップに、私は背いてしまった。
それに罪悪感を感じていない訳ではなくて。
「責めているわけではない。寧ろ、君の成長を感じて嬉しく思った」
そう言ってくれるのは、正直ありがたいことだった。
・・・元々は昴さんに焚きつけられた部分もあるが。
何でも言う通り動く私だから赤井さん自身も、ああいうやり方に反抗を示してほしかったのだろうな。
「ひなたが正しいと思ったことをしろ」
「・・・っ」
ふと呼ばれた名前。
何も変わったことなんてないのに。
赤井さんの声で呼ばれるだけで、胸がキュッとなる。
彼は誰にだってそうなのに、久しぶりに聞いたせいだろうか。
胸の中が・・・ざわつく。
「話を戻すが」
一瞬気が緩んでしまっていた中、彼のその一言にハッと意識を戻すと、自分の中のスイッチを切り替えた。
気が緩みがちなのは、少し平和な空気に慣れすぎたせいかもしれない。
「組織に動きがあるようだ」
そんな気の緩みも、たった一つの言葉で無くなってしまう。
組織、というそれだけがあれば、私の背筋を凍らせるには十分だった。
「・・・ジンですか?」
「中らずと雖も遠からずだ」
遠からず・・・?
ジンで外れではないということなのだろうか。
その曖昧な答えが私を混乱させるが、こんなことで混乱している場合でもない。
「とりあえず、私は何をすれば・・・?」
「・・・・・・」
私の役割を把握する。
それだけを考えて、話を進めたけど。
「俺の傍にいろ」
「!?」
瞬時に思考回路が停止してしまった。
「ど・・・っ」
どういう意味ですか、なんて分かり切った質問までしてしまいそうになって。
そんな私を見て赤井さんは珍しく僅かに口角を上げると、指先を顎に添えて考えに耽るような仕草をした。