第11章 昨日と明日と明後日と
「話以外のことがしたかったですか?」
「・・・すみません、忘れてください」
愚問過ぎた。
昴さんが私に正体を明かした以上、そういったことをする理由がない。
赤井さんがわざわざ昴さんの姿でああいった訓練をしたのは、赤井さんの姿だと緊張してしまうからで。
昴さんが赤井さんだと分かっている今では、何の意味もないのに。
・・・その上で尋ねるなんて、まるで私が求めている言い方だ。
「・・・・・・」
その後は墓穴を掘るのが怖かったのもあるが、特に昴さんから話しかけられることもなかった為、静かに帰路へと付いた。
部屋へと続く廊下まで来ると、神経を隣の部屋へと向けた。
そこに人の気配は無い。
どうやら、今は留守にしているようだ。
「どうぞ」
「失礼します」
であれば、都合がいい。
そう思いながら部屋の鍵を開けると、昴さんを中へと通した。
扉を閉めると同時に鍵も閉め、上着を脱ぐと、互いに体や部屋に盗聴器や発信機の類が仕掛けられていないかの確認をして。
それらが無いことを確認すると、昴さんにアイコンタクトで合図をした。
「それで、話というのは」
奥の部屋へと進むと、昴さんは壁に背をつけ腕を組んで。
私は自分のベッドに座るよう、指示をされた。
彼が立っているのに座るのは気が引けたが、ベッドに座ってくださいとも言えず。
物の少なさが仇になる瞬間を感じた。
「一つ、頼まれてほしい」
彼は喉元の変声機へと手を伸ばすと、そのスイッチを切った。
姿は沖矢昴だが、声は赤井さんに戻った・・・というのだろうか。
何だかムズムズするような感覚に、酷く落ち着きを無くした。
「最初から断りませんので、言いつけてください」
彼からの指示であれば、何だって従うつもりだ。
だからそんな改まることなく、言いつけてほしいが。
「君は背いた前科があるんでな」
「・・・すみません」
そうさせないのは自分だったことに気が付かされると、唇をキュッと締め眉を下げた。