第11章 昨日と明日と明後日と
「寂しいですか?」
「ま、まさか・・・」
昴さんが赤井さんだと知ってから、私の彼に対する態度はもちろん少し変わってしまったように思う。
ただ彼はいつも通り、透さんの前では尚更、そうしていろと私に命令した。
それが簡単にできれば苦労はしないのだけど。
「今日はそろそろ終わりですよね?」
「はい・・・そうですけど・・・」
吹き上げた食器を片付けていると、彼は徐にそう尋ねてきた。
いつも帰りの事なんて尋ねず、コーヒーを飲んで数分後には店を後にするのに。
「一緒に帰りませんか?」
「!」
今日は、突然そう持ち掛けられた。
純粋に言葉を受け取れば、ただ2人で帰路に就くだけなのだろうが、彼の雰囲気がそれだけではないと言っていた。
「・・・わかりました」
任務だ。
沖矢昴という皮を被っていても分かる。
それも赤井さんがわざわざ来るということは、それなりに重要なものなのだろう。
これは・・・安室透と会うのは、また少し先の出来事になりそうだ。
ー
「ひなたさんの部屋でも構いませんか」
「えっ・・・!?」
ポアロでの仕事を終え、昴さんと2人で店を出ると、彼は行先の指定をそうしてきた。
「か、構いません・・・けど・・・」
てっきり、工藤邸で話すのだと思っていた。
そのせいで最初の返事は随分間抜けな声を上げてしまった。
でもこれで、話があることには確信が持てた。
「初めてですね、部屋に伺うのは」
「・・・・・・」
赤井さんの姿では、もちろん部屋に上げたことはある。
でも確かに、昴さんを部屋に上げるのは初めてのことだ。
同じことなのに・・・どうしてこうも違う感覚になるのだろう。
「あの・・・変なことを確認しますが、話だけなんですよね?」
変なところを強調されたせいか、妙に身構えてしまった。
野暮な確認だとは分かっていたが、せずにはいられないほど、落ち着かなくなっていて。