第10章 ジャズに乗せて踊ろう
以前にも触れられたことはある。
ただその時よりも情けなく、声を漏らしてしまった。
咄嗟に壁へ背を当てる形で彼から距離は取ったが、自分でも予想外のことに動揺しきってしまって。
触れられた耳を手で押さえたまま、口を小刻みに震わせた。
「す、みませ・・・、耳は・・・本当に弱いんです・・・っ」
目を泳がせ、唇どころか体や声まで震えてきて。
相手に弱点を晒してしまったことに、違う恐怖が私を襲った。
「だ、だから・・・」
「そんなことを知ってしまったら、虐めたくなってしまいます」
ギッと、ベッドが沈んだ。
取っていた距離を、彼は前のめりで一気に詰めてきながら、顔を近づけて。
バーボンらしい、悪い笑みを私に向けた。
「だ、だめです・・・!ほんとに・・・!」
・・・多少は、慣れたと思ったのに。
こんなことで、やはり触れられるのは無理だと悟ってしまうのか。
再び触られるかもしれないという感覚からか、自分の意思とは関係なく、勝手に両方の耳を手で塞いでいて。
その間も、体は情けなく小さく震えていた。
「・・・大丈夫、しませんよ」
次は何をされるのか。
身構えていた体はしっかりと強張っていて。
そんな私を流石に見かねてか、彼は私の頭を優しく撫でると両耳を塞ぐ手を優しく掴んで、そっと取り払った。
「ただ、耳が弱いことに自覚はあるんですね」
「・・・?」
薄く開いた瞼の隙間から捉えた彼の表情は、何とも言えなものをしていた。
「それは、誰かに触れられたりしたことが・・・あるということですよね?」
儚げな笑みの奥に、得体の分からない恐怖を感じる。
彼が表に出しているのは笑顔というもののはずなのに、感じてくるのは怒りに似たようなもので。
「・・・ッ・・・」
背筋が・・・凍った。
今まで彼の色んな表情を見てきたけど。
ここまで恐怖を煽られることはなかった気がする。
「や・・・透さ・・・っ」
私の手を掴む手の力が強くなって。
そのまま壁に貼り付けられ、彼から逃れる方法を立たれた。
「・・・ッ」
再び呼吸がおかしくなって。
震えが、止まらなくて。
「・・・・・・」
私の手を掴む彼も、それには必然的に気付いているはずだ。
そんな目の前で獲物が弱っていくのを、彼はそのまま数十秒見つめ続けた。