第10章 ジャズに乗せて踊ろう
「ダメですか?」
彼は自分の使い方をよく分かっている。
それがズルくて、羨ましくて。
だから・・・嫌いだ。
「・・・だ、大丈夫、です」
彼と話せば話すほど、触れれば触れるほど。
劣等感でおかしくなりそうで。
「・・・っ」
頬や手に触れ、優しく唇を触れさせる。
その様子を見ていたくはないのに、妙なことをされないように見ておかなくてはいけなくて。
私にとって拷問以外の何物でもない。
「・・・すみません」
いつまでこれは続くのだろうかと考えていると、彼はまず断りを入れて。
「首は・・・ダメですか?」
そう、確認を取ってきた。
前までは許可なんて取らずに、首どころかそれ以上の場所にまで勝手に触れてきたのに。
「く、び・・・」
首は人間の急所だ。
仮に彼が首に手を掛ければ。
流石に避けることはできないかもしれない。
日本の犬・・・警察官である彼が、そんなことをするはずがないと頭では分かっているが。
「ゆっくり、慣らしても構いませんか」
それでも、それ以外の恐怖にも支配されている。
そもそも彼に触れられること自体が恐怖で。
覚悟が足らないと自分を心の中で卑下すると、意を決して小さく頷いた。
「ッ・・・」
暫くして、彼は指先をスッと首筋に這わせて。
くすぐったさに似たその感覚に体を僅かに震わせると、反射で閉じかけた瞼を何とか起こした。
「どうですか?」
そんな事聞かないでほしい。
大丈夫ではないのに、大丈夫だと答えるのも癪だから。
彼の表情から目は話したものの、腕の筋肉の動きには目を向けて。
いつ力が入っても対処できるようにしていた時だった。
「んン・・・っ!」
首筋に触れていた彼の手が、ふと耳に触れた。
たった、それだけの事だったのに。
耐えていた瞼は完全に固く閉じられ、全身を小さく震わせてしまった。