第10章 ジャズに乗せて踊ろう
「と、泊まってませんけど・・・」
事実なのに。
昨日はホテルに泊まった為、嘘は無いはずなのに。
昴さんのことになると、途端に私の言葉が信憑性を無くしてしまうのは何故なのか。
「そうですか」
安心したようにも、納得していないようにも見えるが。
彼がどう思うかなんて、私には関係ない。
証明のしようもないし、する必要も感じていない。
・・・なのに。
どうしてか私の方が、腑に落ちなくて。
「・・・いつも、それ聞きますよね?」
「まあ、一応確認しておきたいので」
私が昴さんと同じ屋根の下で一夜を過ごしたかどうか。
彼はいつもそこを気にしてくる。
仮に過ごしていても、そこには何も無かっただろうけど。
「僕より、あの男と過ごす時間が長かったのかどうか、知っておきたいので」
・・・知ってどうするのだろう、という疑問は持たない方がいいのだろうな。
きっと答えを貰っても、理解できないだろうから。
と、思っていたが。
「本気で、貴女の心を奪いにいくつもりですから。少しでも情報は多い方が良いでしょう?」
言葉では求めなかったが、勝手に出されたその答えに彼らしさを感じてしまった。
組織では情報屋として動いているからだろうか。
懐かしさも同時に覚えて。
「・・・・・・」
懐かしさと同時に僅かに驚いてしまったせいか、彼を丸い目で暫く見つめてしまった。
その数秒後、彼は優しい笑みを私に向けた。
途端、苦しくなって。
呼吸をどうするのか分からなくなって。
思考回路までもが、停止してしまった。
「そ、う・・・ですね・・・」
しどろもどろに、そんな返事をすることしかできなくて。
その情けなさからか、彼からそっと視線を外した。