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【安室夢】零番目の人【名探偵コナン】

第10章 ジャズに乗せて踊ろう




「僕の方こそ、すみません。声をかければ良かったですね」

掛けられたからと言って声が出なかったかと問われれば、難しいところではあるが。

顔の表面に熱が集まるのを感じると、下唇に軽く歯を立てた。

「・・・先ほど触れた場所、少し傷ができているので手当てします」
「お、お願いします・・・」

そういえば、その辺りは何度か強くぶつけたな。
壁にも、床にも。

つまり自分の弱みの部分で。
課題として、脳内で今日の手合わせを思い返す中、ヒヤリと何かが傷の部分に触れた。

その瞬間、体は反射でピクっと反応を示して。

匂いからして、消毒か。
彼も警察官なら、多少の傷は日常茶飯事だろう。

組織に潜入中なら尚更。
病院にいけないことも多いはずだ。

だから傷を手当てするためのものは、一通り揃えているのだろう。

そんなことを考えている間に処置は終わったようで、彼は救急箱の蓋をパタンと閉じた。

「打撲が数か所あります。あくまでも応急処置ですので、すぐに病院に行ってください」
「・・・分かりました」

打撲程度で、いちいち病院になんて行っていられない。
言葉では頷きつつも、胸中では否定を示して。

早くに服を身に着けると、彼には見えず聞こえないよう、細く小さくため息を吐いた。

「ありがとう・・・ございました」
「いえ、大したことはしていませんよ」

・・・用が済んだのなら、長居は無用だ。
彼とは良好な関係でいなければいけないが、彼のテリトリーでは落ち着かない。

そんな風に、言い聞かせるよう言い訳を並べてみたけれど。

「・・・昨日は、彼の所に泊まったのですか?」
「っ・・・」

結局、こういう会話を避けたくて、ここを去りたいだけなのかもしれない。



 
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