第10章 ジャズに乗せて踊ろう
「・・・っ」
パッと顔を上げた時。
やっと、目が合った。
今日はどうにも調子を崩される。
いや、崩されなかった日はなかったかもしれないけど。
彼が見せたことのない色んな表情を、私に向けてくるから。
今も、私に向けるのが不思議なほど、心配そうな表情を向けてくる。
脳が・・・おかしくなる。
「・・・では、お願いします」
彼とはまだ、上辺だけの良好な関係でいたい。
その為にも強く断ることはできない。
どこか自分にそう言い聞かせるように、要求を飲んだ。
「喜んで」
・・・言葉通り、喜んでいるようにも見える。
けれど、晴れない気持ちが見え隠れしているのも感じる。
したくも無いことをしているからだろうか。
「・・・・・・」
私だって、無意味に背中を向けたりなんてしたくない。
それも素の。
相手が日本の警察、公安の人間だったとしても。
彼が男であることに、変わりはない。
いつだって人は、豹変する。
ある日突然、何の前触れもなく、無慈悲に。
「っ・・・」
服を脱ぎ、下着姿になって。
脱いだ服はそのまま、前身を隠すようにして抱き締めた。
冷たい空気が背中を撫でると同時に、彼の視線がそこへと向いていることを肌で感じて。
ただでさえ、傷だらけなのに。
彼が見てきた女性のような体ではないのに。
これで幻滅されたらそれまでか、と目隠しに使っている服を握り締めた時。
「・・・ここ」
「ひぁ・・・っ!」
左の、肩甲骨辺り。
そこを優しい手つきで、ゆっくりと撫でられた。
そのせいで思わず、情けなく弱々しい声を上げてしまって。
「・・・っ!!」
咄嗟に口を手で塞いだが、そんなものは何の意味も無くて。
分かってはいたが、自分の意思ではないことを体現しておきたいという、脳の判断だったのかもしれない。
「す、すみません・・・っ」
恥ずかしいなんてものではない。
無防備に背中を晒しながら、情けなく喘いだのだから。
いくら相手が日本の犬だとしても。
・・・いや、だからこそ尚更に。