第10章 ジャズに乗せて踊ろう
「か、かすり傷なので、大丈夫です・・・けど」
「僕が嫌なんです」
・・・目が合わない。
意図的に合わせられていない。
それが彼にとってどんな意味があるのか分からないが。
淡々と、彼は手当てに必要な物を揃えていった。
「好意を寄せている人が傷だらけなのに、見過ごせる程落ちぶれてはいませんよ」
「・・・・・・」
・・・なんだろう。
この胸が落ち着かない感じ。
チクチクと、喉に小骨でも抱えているような気分だ。
彼から向けられているのは優しさのはずなのに。
その優しさの裏を暴きだそうとしている自分がいる。
その裏がある確証なんてないのに。
「・・・・・・」
割れ物でも扱うかのように。
丁寧に、見える部分の手当ては素早く行われて行って。
消毒液がしみそうな時には、毎回声をかけてくれた。
・・・そんな彼の優しさに、本当に裏なんてあるのだろうか。
答えの出せない自問自答に、自然と表情は暗さを増していたようで。
「すみません、嫌かもしれませんが、服を脱いで頂けませんか」
「え・・・ッ」
突拍子もない申し出に、先ほどまで機能していなかった表情筋が動いた。
「転んだんですよね?傷がないか見るだけです」
そういう事か、とはならなかった。
だって、彼が私にそこまでする必要がどこにある。
それに、だ。
「・・・っ」
傷なんて・・・絶対にある。
それどころか、今までの傷や痕だってある。
それを見て、彼が何かを勘ぐらないとは言い切れない。
ただ、必死に抵抗するのもおかしいのだろうかと、無意識に服を掴んでいると。
「・・・すみません、下心が無いとは言い切れないのに、不誠実でしたよね」
「いや、そういうわけでは・・・っ」
何に言い訳しているのか。
別に、そう思われたままでも構わないはずなのに。
でも、そう思ったわけではない、と・・・それだけは分かってもらいたかった。