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【安室夢】零番目の人【名探偵コナン】

第10章 ジャズに乗せて踊ろう




「!?」

彼との距離は数メートルあったはずで。
だから、こちらに近付いてくるなら気配で反応できたはずなのに。

組織に潜入する公安なだけあってか、気づいた時には既に手首を握られ、無造作に引かれていた。

「ッ・・・」

抵抗する間も与えられなかった。
そもそも、そこまでの体力と筋力が残っていなくて。

あっという間に彼の部屋へと引きずり込まれると、ドアを勢いよく閉められ、そのまま壁に背をつけられた。

声こそ抑えたものの、打ち付けた背中の痛みに顔が歪み、彼の動きから再び目を離してしまって。

「!」

次の瞬間には、彼の手で服がめくられていて。
腹部が空気に晒され、緊張感と恐怖に背筋が凍った。

「や、やめてください・・・!」

片手は、彼の手で押さえ付けられているが、空いている一方の手で、必死に服を持つ彼の手を離そうとした。

・・・けれど、色々な状況が重なり、力で今の彼に敵うはずもなく。
透さんはわたしの腹部を暫く見つめると、徐ろに口を開いた。

「この傷は?」

その声はいつになく低く、どこか怒っているようにも聞こえた。

珍しい声色と雰囲気に思わずたじろぎ、呼吸が止まったように感じて。

同時に、声を出すこともできなくなった。

「あの男と、一体何をしていたんですか?」
「・・・ッ」

答えを出す前に、彼は次の質問を投げかけて。
まるで答えは全て分かった上で質問しているようで。

こちらも、昴さんと截拳道の稽古をしていました、なんて言えるはずもなく。

「な、何も・・・これはさっき転んでしまって・・・」

そんな苦し紛れな答えしか返せなかった。
ただそれは本当に苦し紛れで。

「あの男といたことは、間違いないんですね」
「っ・・・」

真っ先に否定する部分を間違った。
透さんが、あの男なんて曖昧な言い方をするから。

まだ名前を出していない辺りもズルい言い方で。

「・・・本当に、嘘が下手な人だ」

それは・・・否めない。

小声で独り言のように呟いた言葉だったが、静かな空気のせいで、私の所までしっかりと伝わってきた。

「・・・貴女の身に、何かあったら・・・」

先程までとは打って変わって、彼の弱々しく、絞り出すような、そんな声まで。



 
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