第10章 ジャズに乗せて踊ろう
「さて、決着もついたことですし」
昴さんが、何度か煙を吐き出した後。
徐ろに腰かけていた体を立たせると、私にゆっくりと近づいて。
「約束通り、1つ言うことを聞いて頂きましょうか」
目の前で立ち止まると、先ほどとは打って変わり、悪い笑みで私を見下ろした。
「・・・・・・」
どちらからの命令なのだろうか。
昴さんなのか、赤井さんなのか。
彼はあくまでも、それぞれの人間として私に接しているようだから。
昴さんからであれば、少し面倒なことも言われそうだな、と考えていると。
「僕のいないところで泣いてしまったとき、必ず僕に相談してください」
想像もしていなかった命令をされた。
「な、泣きませんよ・・・」
「分かりませんよ?」
それは、赤井さんの前で?それとも、昴さんの前で?
・・・そんなことはどうでもよくて。
「彼がまた、泣かすかもしれません」
「またって・・・」
心配故の命令なのかもしれないが。
昴さんの姿のせいで、からかわれているようにも思える。
「・・・泣かされてませんし、泣かされる前に殴ります」
透さんは今まで何人も泣かせてきたのだろうけど。
私は泣かされるつもりなんてない。
「頼もしい限りです」
そもそも安室透は日本の犬だと聞かされたばかりなのに、その彼に泣かされるという現実を思い浮かべられない。
あるとすれば、なんて仮説すら自分の中で思い浮かばなかった。
「・・・それだけですか?」
「一つだけですからね」
それは、そうだけど。
その貴重な一つを、こんなことに使ってしまうなんて。
まあ、こんなことが無くても、赤井さんの命令であれば二つ返事で受けるつもりだが。
寧ろ彼もそれが十分に分かっているから、こんなことに使ったのだろうか。