第10章 ジャズに乗せて踊ろう
「どっちみち君は、FBIだということを隠しておいた方が良いだろう」
何故ですか?と問いかける気力も無く。
僅かに顔を上げて視線で尋ねると、赤井さんは吸い込んだ煙を吐き出して。
「まだ彼らとは、上手くやっていきたいんでね」
流す眼差しで、私に視線を向けてはそう言った。
なるほど。今まで通り、情報係・・・そしてFBIと日本の犬、公安との潤滑剤というわけか。
やることは今までと大差ないだろうけど。
探る相手の素性が変わると、こうも緊張感が違うものだろうか。
上手くいくかどうかの緊張感ではなく、上手くいかせるしかないという緊張感。
・・・ただ。
「FBIと明かさず、そんなに上手く情報が回るでしょうか・・・」
安室透からは、組織と公安、二つの情報が得られることになる。
ただ、安室透が私のことを元組織の人間、ウェルシュと認識していれば、その情報は組織のものに偏りやすくなってしまう。
それでも十分ではあるが。
「情報面だけではない。彼はFBIに対して大きな恨みを持っているようだからな」
恨み・・・スコッチのことか。
「尤も、その恨みを植え付けてしまったのは、俺だが」
確かにあの件から、バーボンは一層ライのことを嫌うようになっていた。
バーボンのことを、あだ名で呼び合うような関係だ。
・・・公安としての関係だけではなかっただろう。
「ある意味、この仕事は俺の後始末とも言えるが・・・頼めるか?」
・・・この人も、中々ズルい言い方をする。
こういう言い回しは一体どこで身に着けてくるのだろうか。
「・・・断れないこと、知ってて言ってますよね?」
前まではそんな事しなかったが、沖矢昴という人物のせいもあるのだろうか。
ため息混じりに、僅かに不機嫌さを籠らせた声色で尋ねると、彼は昴さんのような悪い笑みを浮かべ、クスっと笑いを漏らした。
「これからも、沖矢昴として君の傍にいる。何かあれば言ってくれ」
・・・赤井さんは、どこまで気付いているのだろうか。
昴さんに吐露してしまった気持ちは、彼に筒抜けだったけど。
私でも気づけていないような感情に、彼はどこまで答えを出しているのだろう。