第10章 ジャズに乗せて踊ろう
「一つ・・・ハッキリさせておきたいのですが」
作戦の意味を聞くなんて、愚行にも程があるのだけど。
それでも、聞いておきたかった。
「どうして・・・あんな事を、したんですか・・・」
酷く濁らせた言葉だが、彼にはこれで十分伝わるはずだ。
赤井さんらしくない、なんて言えた立場ではないが。
何故、沖矢昴という姿で、私にあんな事を教え込もうとしたのか。
ずっと、腑に落ちていなかったのだけど。
「俺の姿の方が良かったか?」
「・・・っ」
彼のその一言の答えで、あっさりと納得してしまった。
これは赤井さんなりの優しさでもあったんだ。
私が不甲斐ないから。
耐性が、知識が、度胸が無いから。
あんな事を・・・いつまでも覚えているから。
「・・・すみません」
1度体を重ね合わせたと言っても、赤井さんの姿で触れられれば、それこそ緊張で進まない。
沖矢昴相手にそうだったのだから、間違いない。
私にハニートラップの才能があれば、赤井さんだってこんなことしなくて済んだのに。
どこにも放出できない悔しさを拳に表していると、赤井さんは吸っていた煙草をアッシュトレーへと押し付けた。
「ただ、安室君に対抗していた部分も否めないが」
「え・・・?」
俯き気味に言葉を発した為か、鮮明には聞き取れなかったが。
そう、言ったように聞こえた。
対抗?赤井さんが?
バーボンに?
何の対しての対抗心なのか。
「彼は本当に君を大事に思っているようだからな」
・・・そういえば。
「昴さんの時も、似たことを言っていましたよね?」
「彼が君を想っていることは、嘘では無い」
赤井さんはどこか笑みを含みながら、そう言い切った。
なぜ、そう自信を持って言い切れるのだろう。
彼は私と違ってハニートラップに慣れている。
そう見せかけることは、組織一だと言っても過言ではない。
「それに応えるかどうかは、君次第だが」
「有り得ません」
思わず、食い気味に断言してしまった。
・・・有り得ないと思っているが、透さんが時々見せるあの表情が。
真剣な言葉が。
嘘ではないと、本能で感じさせてくるから。
赤井さんの言葉で、確信になっていくことが、少しだけ・・・怖かったからかもしれない。