第10章 ジャズに乗せて踊ろう
「もっと早く気が付くと思ったがな」
「それは・・・すみません・・・」
察してはいた。
でも、少し認めたくなくて。
赤井さんに、あんな姿を見せてしまったことや、彼がそんな事を言うはずがない、と。
結局は、自分の中の勝手な形を崩したくなかっただけなのだが。
もう一つ、理由があった。
「・・・どうして、沖矢昴で私に接触したんですか」
この答えを、先に自分の中で出しておきたかった。
赤井さんがどうして、沖矢昴として私に接触しなければならなかったのか。
考えたが、納得できる理由が結局見つけられなかった。
でもこうなってしまった以上、もう本人に聞く他なくて。
できれば沖矢昴ではなく、赤井さん本人に。
「そうでもしないと、君を守れないだろう?」
私の質問にそう答える赤井さんの声色は、どこか笑みを含み、からかわれているようにも思えて。
まるで昴さんと話しているような感覚を覚えた。
「・・・赤井さんって、そんな冗談を言う人でしたっけ」
「冗談だなんて、誰が言った」
おかしくなる。
目の前にいるのは間違いなく赤井さんなのに。
今まで、どうやって赤井さんと話していたのか・・・分からなくなってきた。
「・・・・・・」
私では、頼りなかったですか。
だから傍で見張っていたんですか。
・・・なんて、当たり前で、くだらない質問をしかけた。
組織相手に、私がヘマをしないか不安に思わない訳が無い。
誰だって思うだろう。
「まあ、安室くんの正体を暴く為に、君を少し騙していたことも嘘では無い」
正体・・・そういえば、あの日の帰り際にバーボンがそんなことを言っていた。
「君の反応がなければ、沖矢昴は今も無駄に目をつけられたままだった」
あの夜の出来事を含めて、沢山聞きたいことはあるのに。
どこまで聞いて良いものか。
・・・でも、まずは一つ。
ハッキリと聞きたいような、そうでないような。
でも曖昧にしておくにはむず痒い、あの出来事の真意を尋ねることにした。