第9章 愛はお金で買えますか
なぜ、ポアロに来たのか。
その質問に彼は、私に会いに来たと答えた。
今、これを思い出させるということはやはり、まだ私に用があるということなのだろうな。
・・・で、あれば。
こんな恋人ごっこなどせず、早く済ませてしまえば良いのに。
「あの言葉、全て嘘ではありませんからね?」
「・・・」
言われなくとも分かっている。
念を押してきたということは、今すぐにでも行動を起こすとでも言いたいのか。
ため息となって出てきそうな空気は、笑みとして溢れ出させて。
誤魔化すように、曖昧な態度を示した。
それからの会話は、脳が覚える必要はないと判断したのか、それとも脳まで届けていなかったのか。
記憶も、他愛も、意味も無さ過ぎる会話で。
「付き合って頂いて、ありがとうございました」
「いえ。僕が勝手にしたことですから」
ようやくとも、あっという間とも言えた帰路は、ようやく終わりを迎えた。
逃がされない為か、繋がれていた手も用は無くなっただろうと離そうとしたが、引き際にその手の力は何故か強まって。
「・・・透さん?」
何故離してくれないのか、と首を傾げながら目を向けるが、彼の視線は繋がれた手に向けられていた。
「・・・・・・」
その表情から読み取れるものは、何も無くて。
無表情この上なかった。
「あ、の・・・」
返事が無ければ、どうすることもできない。
もう一度手を引こうとしたが、やはりその手が動くことはなかった。
意図があるのかは分からない。
無理に手を引くこともできない為、意味もなく数秒黙っていると。
「・・・すみません。少し考え事をしてしまいました」
我に返るというよりは、何かが切れるように。
彼は落とすように手を離すと、視線はそのまま口角だけを上げて、そう言った。
・・・彼らしくない。
そう一瞬思ったが、彼らしさなんて大して知りもしない自分を滑稽に思い、心の中で嘲笑った。