第9章 愛はお金で買えますか
その後、したくもない買い物を適当に済ませると、とりあえずの帰路に着いた。
「持ちますよ」
「すみません、ありがとうございます」
もうここまでくれば、甘えてしまおう。
そう開き直って彼に荷物を渡した。
外装からは分からないようにしてあるが、女性の下着が入った袋を平然と持って歩けるのには、あまり理解ができない。
「・・・ひなたさん」
「はい」
どういう距離感で、どんな私で、どんな言葉で。
どう彼と話をすればいいのか分からない。
今までどうしてきたのかも、最早分からなくなっていて。
彼程経験も、知識も無い。
「手を・・・繋いでも構いませんか」
「!」
こんな事を平気で言える、度胸も無い。
うるさく、早さを増していく心臓に、静かにしろと無意味な命令しか出せない。
「大丈夫・・・です」
一瞬で決心を固め、隣を歩く彼に手をおずおずと差し出せば、慣れた手つきで手が重ねられた。
触れた瞬間、やはり体は強張って。
息は詰まるようにしづらさを感じた。
その瞬間、昴さんへの警戒心の薄さというべきか、慣れというべきか、自分の中の感情にまた少し気づいてしまった。
「寒くなってきましたね」
「そう・・・ですね」
彼の手が温かく感じるということは、今の私の手は冷たいのだろうな。
緊張感のせいもあるだろうが、手が冷えているこの状況で、彼と面と向かって銃を突き合せたら、恐らく負けるだろうなと、物騒な想像をして冷静さを保った。
「ひなたさん」
「はい」
なるべく、感情を動かさないように。
ロボットにでもなったつもりで、事務的に動くことを意識しながら返事をした。
「以前、なぜポアロで働き始めたかを聞いてきたときの、僕の答えを覚えていますか?」
足は止めないまま。
彼は真っ直ぐ前を見ながら、私にそう尋ねた。
「・・・覚えていますよ」
何故今更そんなことを確認するのか。
疑問に思いながらも、私は静かに返事をした。