第1章 朝日は終わりを告げた
「も、もしもし、コナンくん!?」
キャッチホンを拾った彼女だったが、そこに耳を近付けなくても聞こえて来たのは、残念ながら彼の声ではなく。
「せ、世良さん!?ごめん、色々あってパニクってて・・・!」
また、彼女か。
声を上げて怒る様子の彼女に、蘭さんは必死に状況を説明して。
それを横目に、もう少しこの場所を調べてみるかと動きかけた時。
「!」
肩をポンポンと叩かれ、人の気配を僅かに感じた方へと視線を向けると、そこには何故か、私の肩へと手を置く安室さんがいて。
「ひなたさん、少し良いですか?」
「は、はい・・・?」
今、この状況で何の用だろうか。
そう思いながら、彼が軽く指で指し示した玄関へと2人で向かって。
「この下駄箱、どう思いますか?」
「え・・・?」
至って真面目。
そんな表情のまま、彼は玄関の下駄箱を開いて私にそんな事を尋ねてきた。
戸惑いつつも目を向ければ、それは一瞬で違和感という引っ掛かりを覚えた。
「・・・男物ばかりで、女性物が無いですね」
女性なら2、3足は持っていそうだが。
それに彼女は就職浪人だとも言っていた。
そんな彼女がこんな場所に住んでいて、靴の替えが無いなんてこと、あるだろうか。
「それにこっちも」
安室さんは私の手首を掴んでは、引き連れるように洗面所へと向かって。
そこにはいくつかの洗濯物があったが、女性物が1つも無い。
分けている、という様子も感じられない。
つまり。
「男物しかありませんね。少なくとも、一緒に住んでいたというのは嘘・・・か、も・・・」
そう思い、考えを口にしていた時だった。
徐々に以前の記憶がフラッシュバックする。
組織にいた頃。
バーボンとウェルシュとして・・・こんな風に仕事をした事もあったと。
そして、気付くのには遅過ぎた。
「・・・っ」
「どうされました?」
・・・喋り過ぎてしまった、と。
「い、いえ・・・」
普通の人はどこまで気付くものなのか。
私にはもう、その普通が分からない。
この男が私のことをウェルシュだと知った上で近付いていたとしても、隠し通さなければならないのに。