• テキストサイズ

【安室夢】零番目の人【名探偵コナン】

第9章 愛はお金で買えますか




「・・・否定しないんですか」
「!」

彼の表情に気を取られ、言葉にまで気が回らなくなっていた。

「いえ・・・っ」

咄嗟に否定しようとしたが、あまりにも信ぴょう性のない沈黙が流れすぎていて。

いずれにせよ、否定したところで意味がない。
目の前で事実であることを証明してしまったのだから。

「僕には、手を伸ばしてくれたことはないのに」
「と、透さん・・・」

胸が・・・ざわつく。
何故こんなにも罪悪感に押しつぶされそうなのか。

彼を私から求めるなんて、あり得ない。
それは彼自身が一番よく分かっているはずじゃないのか。

彼がバーボンで、私が元組織の人間ということだけで。
その事実だけで、お互い勘違いしないには十分じゃないか。

その事実があるのに、何故。
彼は私が心を開かないことに辛さを感じているのか。

もしこれが演技だとするなら、彼にこそマカデミー賞をあげるべきだと思うが。

・・・残念ながら、本音としか思えなくて。

「・・・出直します」
「ま・・・っ」

待って。
そんな身勝手な言葉を、言えるはずもなく。

彼はその後の表情を見せないようにすると、静かに工藤邸を後にした。

透さんが出て行った扉を暫く見つめ、何も・・・本当に何もできなかった自分への失望と絶望を同時に味わって。

「・・・」

ここにいる意味どころか、そもそも日本にいる意味さえ分からなくなっている中、背後に気配を感じたが、振り返る気力なんて残っていなかった。

どうせ、立っている人物も決まっているのだからと、振り返る必要性も感じられなかった。

「・・・お疲れ様でした」

疲れた。
それは確かだ。

でも、一体何に。

「・・・・・・」

こういう感情が、自暴自棄に近いのだろうな。
もう色々とどうでもよくて、自分の中で理由をつけては全てを無意味にしようとする。

・・・けど、自分の中ではっきりさせておきたいことが一つだけあった。

「沖矢さん・・・本当に何者なんですか」

それを明らかにする為、背後に立つ彼へと、そう問いかけた。

「ただの大学院生ですよ」

それに対して彼はそう答えて。
自分の中で確信が持てた。

ああ、やはりそうか、と。



 
/ 368ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp