第9章 愛はお金で買えますか
「どうした!状況は!?応答しろ!」
・・・こんなに焦っている彼を、初めて見た。
いつも冷静で、落ち着いている彼が・・・ここまで乱されている。
それ程まで、赤井さんに執着というのか、執念というのか、彼の中で感情が育っていることを目の当たりにした。
「すばる、さん・・・」
・・・赤井さんに危険が及んでいるかもしれない。
それなのに、私はここで何をすることもできない。
じっとしていられない衝動を、彼の袖を掴むことで紛らわすように、バーボンから移った焦りの混じった眼差しで、昴さんを見上げた。
その手を彼は優しく包み込むように触れては、私に柔らかい笑みを向けて。
「大丈夫ですよ」
「・・・・・・」
そう、静かに一言だけ口にした。
・・・きっと、この時には自分の中で気付いていたのだと思うのは、少し先のことで。
「いや、我々の正体を知られた以上、これ以上の深追いは危険です」
私たちに背を向けたまま、彼が電話相手にそう言ったのが聞こえてきて。
正体?我々の・・・?
それは・・・組織の人間ということ?
いや・・・知られたと言っている相手はFBIだ。
正体なんて言葉は今更が過ぎる。
つまり彼は、組織以外にも別の顔を持っているということ・・・?
「あ、すみません・・・何か勘違いだったようで・・・帰りますね」
何かを堪えるような笑みをこちらに向けながら、彼は先ほどまでの緊張感と冷静さを解いて、足早に去ろうとした。
「と、透さん・・・!」
昴さんの腕から掴んでいた手を離し、咄嗟に玄関に向かう彼を追いかけた。
かける言葉なんて決まっていない。
例え用意していたからといって、かける自信もない。
けれど、何故か。
今、彼を一人にしてはいけない気がした。