第9章 愛はお金で買えますか
「そう、大きさは丁度、そのハイネックで・・・」
考える間なんて与えられない。
トドメと言わんばかりに、バーボンは昴さんに近付いて。
「隠れるくらいなんだよ!」
彼のハイネックに、手を伸ばした。
何故、抵抗しないのか分からないが。
昴さんは落ち着いた様子で、全てを受け入れていた。
本当は私が身を挺して、阻止しなければならないはずなのに。
「っ・・・」
できなかった。
バーボンに、どこまで私のことを知られているか、まだハッキリと判断ができなかったから。
既に私がウェルシュだということは、言われたも同然な状況だが。
私がFBIだということは、気付いているか分からなかったから。
今ここでFBIである赤井さんだと彼が明言する沖矢昴を庇えば・・・バレなくていい事までバレる可能性がある。
そう思うと、昴さんを大きく庇うことが、できなかった。
できたのは、バーボンと昴さんの様子を、ただ見守ることだけだった。
ハイネックに手が掛けられると、バーボンが獲物を追い詰めた表情を浮かべて。
クッとそれを下げられた瞬間、息も時も止まってしまったようで。
「な・・・!?」
バーボンが驚いて小さく声を上げた時、私も同じように驚いた。
あると確信していたものが、そこになかったから。
「あの。電話、鳴ってますけど?」
「!」
バーボンも私も、机に置かれていた彼のスマホがなっていることに、昴さんから言われるまで気が付かなった。
「あ、あぁ…」
ただ…その電話が鳴っているということは、こちらにとって良い知らせとは限らない。
「す、昴さん・・・」
諸々の不安からか、咄嗟に彼の腕に縋るように、名前を呼んで服を掴んだ。
それを一度目視すると、彼はいつもとは少し違う笑みを向け、口元に人差し指を添えては、静かにとジェスチャーで伝えてきて。