第9章 愛はお金で買えますか
背後では、マカデミー賞の発表が続いており、めでたくも工藤優作氏が受賞しているところだった。
本来であれば、この上なく喜ばしいことなのだろうが。
そんな事は気にも止められないまま、ピリついた空気は流れ続けた。
「一体、何を企んでいる?」
「企むとは?」
少しの間の後、バーボンは魂胆を探ろうとしたのか、改めて昴さんに尋ね始めた。
変装のことには触れず、マスクをつけ直しながら尋ね返す昴さんを横目に、下唇を軽く噛んだ。
「ザッと見た感じだが、玄関に2台、廊下に3台、そしてこの部屋には5台の隠しカメラが設置されているようだ」
見えているカメラに軽く視線を向ける彼を見て、やはりこの男に隠し事は無理だと改めて感じた。
彼にとって、これくらいは朝飯前なのだろうが。
「この様子を録画して、FBIにでも送る気か?それとも・・・」
鋭くなるこの目つきも、逃さないと言われているようで。
「別の部屋にいる誰かが、この様子を見ているのかな?」
・・・心地悪い。
「そもそも僕と似ているんですか?顔とか声とか」
それは・・・そうだ。
顔も声も、思いのまま変えられる人物の近くにいた経験があるせいで、容易だと考えてしまっていたが。
あの人が異常なんだ。
ただの民間人が、そんなこと簡単にできるはずが・・・。
「顔は変装、声は変声機・・・」
「変声機?」
昴さんの質問にも、そつ無く余裕な雰囲気で答えるバーボンを見て、相変わらずの用意周到さを感じた。
バーボンだって、自由自在に見た目や声を変えられる人間の傍にいる側なのに。
「隣人である阿笠博士の発明品で、評判がよかったのに急に販売を止めた物はないかってね」
・・・阿笠博士。
当然のように、彼にも目をつけていたのか。
と、思うと同時に。
「それはチョーカー型変声機。首に巻けば、喉の振動を利用して自在に声が変えられて、ストーカーの迷惑電話などの対処に役立つ」
彼が・・・沖矢昴が、赤井さんだったとして、だ。
その頃から赤井さんは阿笠博士と知り合いだったということで。
で、あれば。
コナン君が赤井さんのことを知っていたことを考えると、恐らくコナン君とも、その頃からの知り合いで。
私が・・・コナン君の監視を頼まれていたと思っていたが、もしかしてそれは。
コナン君と私は、互いに監視し合う関係だったのでは。