第9章 愛はお金で買えますか
「それで、突然どんな御用でいらっしゃったのですか?」
「!」
ティーセットを机に置き、私をソファーへと誘いながら、昴さんは透さんへと問い掛けて。
ここに呼びつけていた訳ではないのか、と僅かに目を見開いて腰掛けると、昴さんは自然と私の背中へと手を回した。
「・・・ただのお喋りですよ」
その手は私を僅かに引き寄せる為のものだったが、透さんはそれを、怪訝そうな表情で見据えながら答えて。
「・・・・・・」
行動としては、昴さんらしいが。
手つきが、昴さんらしくない。
彼はレフティだったはずで、自然と私は彼の左側にいたように思うが、今日は何故か右側に座らされた。
らしくないと思ったのは、そのせいなのか。
「ミステリーは、お好きですか?」
「ええ、まあ」
背後で、マカデミー賞の様子がテレビで流れる中、会話は始まった。
理由も目的も、何も分からないまま。
「では、まずその話から。まあ、簡単な死体すり替えトリックですけどね」
「ほぉー、ミステリーの定番ですね」
・・・空気が、変わった。
目の前に居るのは安室透ではない。
いや、もうこの部屋に入る前から、きっとそうだった。
ここにいるのは、間違いなく・・・バーボンだ。
それに気付いて、息苦しさが増した瞬間。
「ある男が、来葉峠で頭を拳銃で撃たれ、その男の車ごと焼かれたんですが・・・」
「・・・っ!」
息が、できなくなった。
血の気が引くというのは、こういう事なのだと強く実感できる程、体は一瞬で冷えきった。
その後のバーボンの言葉は、耳にも頭にも入ってこなくて。
ただ視線を落とし、服を強く掴んで、浅い呼吸を繰り返すしかなかった。
「ッ・・・」
あの人が・・・赤井さんが生きていると、バーボンにバレた。
その可能性はほぼ100%だ。
ただその事実を、昴さんに突きつけていることには疑問が残っていて。
「・・・・・・」
その疑問のおかげか、少し冷静さを保つと、俯いたまま彼らの言葉に耳を傾けた。
来葉峠で見つかった遺体は赤井さんのものではなく、逃げられないと悟って自決した組織の人間。
直前でキールに撃たれたフリをして、その遺体とすり替わった。
・・・その辺りまでは、私も把握している事実だ。