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【安室夢】零番目の人【名探偵コナン】

第9章 愛はお金で買えますか




「・・・・・・」
「・・・・・・」

その後の10秒程。
ほんの僅かな、何でもない時間が、ここまで苦しく感じることがあるなんて。

1秒が永遠のようにも思える、昴さんが早く戻ることを祈りながらやり過ごした、短くて長い数秒後。

「彼も、僕と同じ立場ですか?」

昴さんが戻るよりも、先に口を開いたのは透さんだった。

「・・・?」

どういう意味か、と目で問い掛けて。

その間も、時は静かにゆっくりと長い時間を掛けて流れたように思えた。

「・・・彼とも」

その要因の一つに、彼の表情があったと思う。

穏やかな空気、柔らかい物言い。
いつもと変わらない雰囲気なのに。

表情だけは、さっきと少し違って。

「お付き合いの、一歩手前の関係ですか?」

・・・苦しそうで、悲しそうで。
私を見ているようで、私が見えていないような。

こちらの心の方が抉られるような、そんな表情をしていたから。

「ち、が・・・」

それは、違う。
間違いなく、事実だ。

けれど否定しきれない自分がいた。

昴さんとは協力者だ。
でも、それをバーボンに言えるはずもない。

であれば、ただの如月ひなたの立場で、昴さんをどう説明すればいいのか。

こうして家に出入りをして、彼は知らずとも一緒に夜を過ごして。

何もありませんと言って、誰が信じる。
・・・実際、過去の話だが何も無かった訳では無い。

否定はしきれないが、今は否定するしかない。
なのに、否定の前に言葉に詰まれば、それはもう肯定だ。

「お待たせしました」
「!」

堂々巡りの壊れた思考回路で動きを止めてしまっていると、ようやく昴さんがキッチンから戻ってきて。

ここまで彼を待ちわびたことは、今までなかった。
それはきっと、表情に出てしまっていて。

「・・・ひなたさんはこちらに」

何かを汲み取ったのか、ティーセットの乗ったトレーを持った昴さんは、彼の横を私の指定席にした。

・・・そもそも、だ。
私をこの場に居させなければ、こうはならなかったのに。

そんなのは、八つ当たりになるのだろうか。




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