第9章 愛はお金で買えますか
「・・・あの」
「はい」
おずおずと、確かめるように。
彼が・・・何者なのかを。
「昴さん・・・?」
顔を覗き込みながら、呼んでみたけれど。
「・・・はい」
やっぱり違う。
そう、確信してしまった。
彼はこんな風に笑わない。
つい数時間前まで、いつもの沖矢昴だったはずなのに。
私がいない間に、彼はどうしてしまったのだろうか。
「あの・・・本当に昴さ・・・」
意味の分からない質問だとは思う。
彼が本物なのかどうか、そんな事を本人に聞こうとしているのだから。
でも、せずにはいられなくて。
「・・・!」
けれどそれは、私が思っていた以上に早く来た客人によって、阻まれた。
私の質問はインターホンの音で掻き消され、するタイミングを完全に失ってしまった。
「僕が出ます。奥の部屋で待っていてください」
「・・・分かりました」
まあ、いい。
どっちみち、訳の分からない質問だ。
私がおかしいと思われて終わるだけだ。
これで良かったんだ、と言い聞かせるように、昴さんとは反対方向へ進んでいくと、いつもの部屋へと足を踏み入れた。
「・・・?」
部屋に入ると、いつもはついていないテレビが付けっぱなしにされていて。
表示されていたのは、マカデミー賞の発表の様子だった。
昴さんがこういった類が好きとは聞いたことがないが。
そう思いながら何となく画面を眺めていると、ふと映った1人の人物にハッとした。
そうか・・・この家の主、工藤優作が出ているのか。
一応、そういう事は気にする人だったのかと意外に思いながら、ふと部屋を見回した。
この部屋にもいくつか監視カメラがある。
様子を、コナンくんが見ているのだろうけど。
そうまでしないといけない相手、と言われると。
・・・組織の人間、なんてことはないだろうし。
そもそも相手は、呼んだ人物なのか。
それとも、来ることを予想していた人物なのか。
カメラ越しの視線を感じながら部屋で待っていると、背後から足音が2人分聞こえてきて。
その方向へ視線を向けた瞬間、時が止まったようだった。
「!?」
こういう時の悪い予想というのは、尽く当たる。
組織の人間ではないだろう、なんていうのはただの願望で。
実際、こうして来てしまうのだから。