第9章 愛はお金で買えますか
「どうされました?」
穏やかに、昴さんがそう尋ねてくるけれど。
それにも違和感がある。
いつもの悪そうなものではなく、真っ直ぐな笑み。
マスクを付けていても、それが分かる程。
彼はこんな綺麗な笑みを向けることもできるのか、という考えには残念ながら落ちず。
・・・この人は誰なんだ、という拒絶感。
「如月さん!」
「!」
その感覚に我を忘れていたが、コナンくんの声によって一気に現実に引き戻された。
「ご、ごめん・・・」
何故、昴さんへそう感じたのかは分からない。
分からないからこそ、落ち着かなくて気が気じゃない。
如何に彼へ気を許していたか、分かったような気がした瞬間だった。
「じゃあ、始めようか」
コナンくんが、場の空気を切り替えるように手を一度叩いて、そう言った。
一番小さな彼がこの場を仕切ることにすら、疑問に思わない。
それくらい、異常さが溢れた空間に思えて。
慣れた場所のはずなのに、居心地の悪さに体が落ち着きを無くしていった。
「如月さんは、昴さんと来客に備えてくれる?僕は別の部屋で監視してるから」
・・・そういえば。
この部屋に来る途中、いくつかの監視カメラに気付いた。
他人の家に、とやかく言うつもりは無い為、敢えて触れはしなかったが。
そういう為のものだったのか。
「分かった」
来客が誰なのかは尋ねないまま。
コナンくんの指示に、私は首を縦に動かして。
ただ、監視を必要とする来客とは一体どんな人物なのか。
きっとコナンくんは顔を合わせられないのだろう。
で、あれば・・・相手は危険な人物なのかもしれない。
「じゃあ、よろしくね!」
コナンくんは最後に子供らしい笑みを向けて、どこかへと立ち去った。
2階に続く階段を駆け上る足音がするから・・・きっとそのどこかの部屋なのだろう。
その足音が途切れると、気まずさと落ち着かなさを込めた視線を、昴さんへと向けた。