第9章 愛はお金で買えますか
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その日の夕刻。
私はとある人物の尾行をしていた。
・・・まさか、同僚を尾行する日が来るとは思いもしなかったが。
「・・・・・・」
尾行の対象者であるジョディは、とある通りで誰かを待っていた。
その様子をレンタカーの車内から確認していた数分後、ジョディを迎えに来た車は路肩に停車し、彼女を助手席側に乗せると、どこかへと走り出して。
運転席にいたのは、昨日も一緒にいたキャメル捜査官だ。
やはり、用心してレンタカーで来て良かった。
FBI相手に、あの車を使えばバレる可能性が高い。
特にキャメル捜査官は、日本でもドライバーとして活躍しているようだから。
目を光らせているかもしれない。
「・・・はあ」
わざとらしくも自然に漏れ出たため息を吐き出しながら、彼らの乗る車の尾行を続けて。
いくらコナンくんの頼まれごとと言っても、理由を聞かなければやはり納得はし難い。
「来葉峠、か・・・」
コナンくんの予想では、彼らはこの後そこに向かうはずだと言っていた。
来葉峠といえば、赤井さんが自らの死の偽装工作を行った場所だ。
それを・・・彼女達は知らないはずだ。
それはコナンくんも・・・と、思いたい所だけど。
薄ら残る記憶に、小さな探偵くんの顔がチラついた。
段々と、自分の中で点と点が線で繋がっていく様な感覚だった。
ーーー
彼らの予想通り、ジョディ達は来葉峠方面へと向かって。
それを見届けると、私は工藤邸へと戻った。
「戻りまし、た・・・」
すっかり日が落ちた。
そのせいか、体は既に一日を終える体勢になっていて。
「おかえりなさい」
そんな私を、いつもの部屋で昴さんが迎えてくれたのだが。
「・・・?」
出発前はしていなかったマスクを、つけていて。
「すみません、少々風邪気味なようなので」
無言の質問に、彼はそう答えたが。
「・・・・・・」
何か、違和感が私を襲った。
言葉にし難い、何とも言えない違和感。
マスクで顔が覆われているせいかとも思ったが、そういった類では無い。
「如月さん?」
後からやって来たコナンくんが、呆然と立つ私を不審に思ったのか、小首を傾げながら名前を呼んだけれど。
それに返事をする余裕も無く、ただただ、昴さんの顔を見つめた。