第9章 愛はお金で買えますか
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「・・・それで、バーボンを突き放して、ここに来ました」
昨日の出来事を、なるべく細かく。
そして、ありのまま自分が思った事と共に彼に伝えた。
彼は最後まで口を挟むことなく、黙って静かに私の話を聞いた。
「・・・気になったのは、そこなのですが」
話し終えて数十秒。
彼は間を置いた後に笑顔を消したまま、ようやく口を開いて。
「何故、ここへ?」
「・・・・・・」
彼の表情からして、いつもの冷やかしのような質問でないことはすぐに分かった。
「僕に抱いてもらおうと思った訳では、ありませんよね?」
だからこそ、言いたくなかった。
彼を頼ってしまったことを。
「・・・・・・」
部屋にいるのが嫌なら、ホテルだってネットカフェだって手があった。
でも、そうせず、ここに来ることを選んだ。
昴さんがその理由を明確にしようとする意味は分からないが、視線を逸らし、言いたくないことをそのまま態度に出した。
彼はほんの小さなため息にも聞こえる吐息を漏らしながら、壁に寄りかかる体を僅かに起こすと、再び口を開いて。
「では、質問を変えます」
・・・尋問だ。
淡々とした声色といい、尋ね方といい。
心が、壁際へジリジリと追い詰められていく。
「貴方は、彼の何に苛立って部屋を出たのですか?」
だから、なのか。
私の中で明確な答えに、強く蓋がされてしまっているのは。
「・・・・・・」
透さんに苛立ったのではない。
あれはきっと自分に苛立ったんだ。
こんなの、どちらにも不誠実極まりない。
最近の私は流され過ぎている。
自分を見失うのも当たり前だ。
私は、甘え過ぎた。
赤井さんにも・・・昴さんにも。
「あの・・・っ」
やっぱり、1人で考え、行動するべきだ。
今まで、そうしてきたように。