第9章 愛はお金で買えますか
「!」
突然、スマホを彼に取り上げられて。
何の躊躇いも確認もなく、彼は即座に掛かってきている電話に出た。
「もしもし」
出た方が良いことは分かっていたが、昴さんが出るのは逆効果なのでは。
「彼女が出たくなさそうでしたので、代わりに」
・・・そんな私の不安は無造作に壊されて。
ここまでくればもう、どうしようもない。
後始末をするのは私なのだから、あまり好き勝手しないでほしい、が。
「・・・女性を泣かせるような男の元へは、行かせられませんね」
「!?」
おまけに嘘まで吐いた。
こちらも動揺を隠せず、表情にそのまま出してしまいながら彼を見た。
その様子を見てなのか、昴さんは楽しそうに笑みを向けると、背を向け窓際へと向かって。
「もう少し見込みのある人間かと思いましたが・・・存外見掛け倒しで、失望しました。では」
外の様子を見つめながら、最後にそう透さんに言い放って、一方的に電話を切った。
その最後の姿が・・・昨日の怒った彼を思い出すようで。
「す、昴さ・・・」
余計に怯えながら声を掛けると、彼は持っていた私のスマホを私に差し出して、同時に笑顔を向けた。
「朝食はパンで良いですか?」
・・・いつもの彼だ。
逆にそれが怖いと思うのは、天邪鬼な考えだろうな。
「は、はい・・・」
返事をすれば、彼の笑みは深くなって。
先にキッチンへ行っていると言い残し、部屋を後にした。
「・・・・・・」
・・・透さん、何の電話だったのだろう。
最後、昴さんが怒ったように見えたのは気の所為だろうか。
私は何に怯え、恐怖を覚え・・・何から逃げているのだろう。
少しは冷静にならなければ。
でなければ、ずっと何もかも見失ったままだ。
深呼吸をして頬を両手で軽く叩くと、さっきまで彼が立っていた窓際に足を進めた。