第8章 ハートの無いトランプ
「し、しないんじゃ・・・っ」
「しませんよ」
じゃあ、何故。
そんな短く、簡単な質問が・・・今はできない。
彼の腕の中から、逃れることも。
・・・逃れるつもりもなかったように思うが。
「・・・っ」
宣言通り、私の体は昴さんが使っている部屋のベッドへと優しく下ろされた。
こうして触れられても、昴さんにはやはり体が必要以上に強ばらない。
これが意味する理由を・・・私は知っても良いのだろうか。
「ッ・・・」
ベッドに倒された私の傍に、昴さんが同じように寝転んで。
添い寝をする形で向き合ってベッドに転んでいるが、これで本当に何もしないのだろうか。
「貴女が眠るまで、傍にいるだけです」
そんな私の考えを読んだように、彼は見事に心の声に返答をして。
これ以上何かを悟られるのは嫌だと、体が拒絶して昴さんから視線を逸らした。
「話したいことがあれば聞きますが、そうでなければ今日は聞きません」
・・・今日は、か。
私が落ち着いたら聞き出す、とも聞こえるが。
「・・・・・・」
僅かに香ってくる、煙草の匂い。
ここが昴さんの部屋だからか、いつもよりもそれは強く感じられた。
ただ、今はそれに心底安心する。
「・・・これは、協力者としての添い寝ですか」
彼にされた質問と重ねるように。
別に答えが欲しい訳ではなかったが、ふと尋ねた。
「いえ、僕個人がしたいことです」
どっちだったら良かった、というのも無くて。
どちらの立場だとしても、昴さんが傍にいるという事実に変わりは無いから。
「・・・昴さん」
「はい」
・・・いや。
私はどこかで。
「手を借りても・・・良いですか」
彼に、赤井さんを重ねていたのかもしれない。
昴さんがいてくれる安心感というよりは、赤井さんを感じる昴さんに・・・安心感を覚えていたように思う。
「どうぞ」
差し出された手にそっと触れれば、あの人の面影を更に感じるようで。
「・・・・・・」
やはり、似ている。
彼が截拳道を嗜むせいもあるのかもしれないが。
この手に・・・異常なまでの安心感が、ある。