第8章 ハートの無いトランプ
「・・・・・・」
私が答えた後、再び沈黙が続いて。
彼なら何も言わず、抱いてくれると思ったのに。
「・・・!?」
パッと顔を上げた瞬間。
額に強い衝撃を受けた。
避ける隙なんてなかった。
気付けば彼の指が弾かれ、額に当たっていた。
「弱っている女性に手を出す趣味はありませんよ」
痛みに思わず額に手を当てると、目を見開いて彼を見た。
怒りが混ざるような声色で彼にそう言われながら、立ち上がる姿見上げた。
「お風呂、準備してきます」
「・・・・・・」
・・・分かっている。
間違ったことを言ったのは。
でも、昴さんがそこまで怒りを露わにするとは思わなくて。
私達はただの協力者で、特別な関係ではない。
いや、ある意味では特別だが。
一度はそういうことをする為に一緒にいた。
なのに。
・・・なのに。
ー
あの後、会話らしい会話はないまま、昴さんが準備をしてくれたお風呂へと入って。
私がその日済ませていたかどうかは関係なかったのだろう。
きっと、ここで頭を冷やせという意味で準備されたんだ。
けれど、体が温まった以外に変化はないまま、脱衣所を出ると。
「・・・!」
廊下の壁を背に、彼が私を待っていて。
「上がりましたか」
そう言って私を見る彼の表情は、いつもの姿のように見えたが。
さっきの怒っていた姿を思い出し、咄嗟に半歩引いた瞬間。
「!!」
一気に距離は詰められ、気付けば彼の腕の中に体が横抱きで、すっぽりと収まっていた。
「す、昴さん!?」
恐らく、避けることはできた。
けど、体がそうしてはいけないと判断し、動かなかった。
それでも僅かな抵抗で彼を軽く押すと、私を支える手の力が強くなったような気がした。
「ベッドまで運びます」
私の動揺を他所に、彼はいつもの声色でそう言い放って。
私の戸惑いはピークに達した。