第8章 ハートの無いトランプ
「か、帰ります・・・」
「ひなたさん?」
・・・心がざわつく。
自分に失望してしまったこともそうだけど。
何故か・・・悲しくなった。
その理由は分かっていた気もするが、分からないフリをして、呼び止める彼の声を耳に届けないまま、部屋を飛び出した。
「・・・っ」
そのまま隣の部屋に戻ろうとしたけれど。
透さんが追ってこないとは限らない。
すぐに足は反対側へと向いて。
気付けば走り出していた。
ー
「どうされました?」
「・・・・・・」
無我夢中で辿り着いたのは、工藤邸で。
こんな夜遅くに呼び鈴を鳴らすことなく、ドアを何度か叩くだけで、中から昴さんが顔を出した。
「・・・ッ」
悔しい。
結局、彼を頼ってしまった。
それ以上に、彼の顔を見た瞬間・・・安心してしまったことが何より悔しくて。
・・・情けなくて。
「・・・!」
突然来て扉を開けさせたにも関わらず、また逃げようとしてしまった。
振り返り、走り出そうとしたけれど、その手を昴さんは咄嗟に掴み、離さなかった。
「・・・とりあえず、中へどうぞ」
今、何時だろう。
部屋に電気はついていなかったように思う。
彼が寝ているところは見たことがないが、もしかすると寝ていたかもしれない。
そんなことにも気が回らない程に、私の頭の中は動揺と、混乱と、劣等感と、罪悪感で入り交じっていた。
「紅茶で良いですか?」
「・・・はい」
部屋に入ると、いつものソファーへと私を座らせた。
彼は私に確認を取り、キッチンへと姿を消して。
「・・・・・・」
何故、ここに来てしまったのだろう。
頭を冷やすだけなら、外でもホテルでも良かったはずだ。
それなのに・・・足は自然とここへ向かっていた。
「今日のデートは失敗ですか?」
キッチンからトレーに紅茶のセットを乗せ、運びながら彼は私に尋ねた。
そうか・・・元々はそうだった。
結果、そうはならなかったが。